小論文という受験科目は、私が壺溪塾に入った当初から、特に国公立大の後期試験として課され、指導の難しいものだった。国公立大の二次試験では、思考力や表現力が求められる。そのベースに読解力があり、読むことと書くことは、この個別学力試験において高得点を取るために欠かせない基本スキルといえる。
ところが今の子どもたちは活字に触れる機会が少ない。数学者の新井紀子さんの『AIVS.教科書が読めない子どもたち』という著書に載っているリーディングスキルテストを見ると、読解力が失われつつあることが分かる。そんな中で今、入試制度の改革が進み、総合型選抜(旧AO入試)や学校推薦型選抜の定員が増え、この選抜型で小論文が課されることが多く、さらに注目を集めている。
いわゆる小論文対策は難しい。一人ひとりの学力にものすごい差があるからだ。この場合の学力というのは「合格小論文を書く力」である。テニヲハから直さなくてはならない生徒もいる。ある程度の書く力はあるが、情報のインプットがまったくできていない子が多い。情報リテラシーを磨いていない生徒が多いからだ。
現代社会では、自分が見聞きした一次情報は少なく、世界中から飛び込んでくるインターネット上の情報を取捨選択する力を磨く必要があるが、そのための実践的な授業はあまりない。小論文を高校や大学の生徒や学生、先生に講演に行く機会が多いのは、どう書けばいいのか皆悩んでいるからである。そんなとき、熊本放送時代の記事が書けなくてデスクに叱られていた経験を話し、他者のうまい文を盗むことが大切というエピソードを語る。私のようにたくさんの活字に触れること、書いてみることとアドバイスする。
特に高校生コースは現役でいち早く合格を決めたい塾生が多数入ってくる。去年の秋、現役生の総合型選抜においての個別指導を担当することになり、国語科、小論文科主任の甲斐濯先生と総合型選抜や学校推薦型選抜での合格を目指す塾生に指導を行った。
その中で郡部の高校からJRで水前寺校に通った高校生は一般入試も視野に入れ大阪大人間科学部を志望していたが、共通テストでも高得点がとれ、二次試験の小論文も書けたということで、彼女は2024年度、見事大阪大に現役で合格を決めた。この夏には金髪姿で訪ねてくれ「この髪、似合うと言われます」「阪大めっちゃ楽しいです!」と笑顔を見せてくれた。
今年度も高卒生コースの熊大クラス在籍生が奈良女子大文学部人文社会学科への総合型選抜での合格を決めている。
小論文指導は私の今の仕事の中でもっとも楽しいものだ。具体的に役に立てる、というのはやり甲斐に満ちた仕事で、懸命な書く努力で上達する塾生に会える喜びまでいただける。この年になってこんないい仕事に巡り合え、心から感謝している。
紹介する本:「AIVS教科書が読めない子どもたち」新井紀子
この本は数学者の新井紀子さんが次々に出る安易なAI本への警鐘を鳴らす意味もこめて書いた本で、30万部のベストセラーになりました。この中にある「リーディングスキルテスト」の結果では、日本の中学生・高校生を対象に読解力を試すこのテストをしたら、かなり厳しい結果になったという事実が書かれています。東大にAI を通すプロジェクトをも行っている新井さんは、AIが席巻する時代にあって、読解力を養うことが大切なのだという問題提起をしています。OECD加盟国で4年ごとに行われるPISAの学習到達度調査では、参加した35国の中で、日本の読解力は前回の2018年の15位と比べ2022年は3位へと浮上しました。共通テストも数学でさえ問題文の読む量が多くなっており、個別学力試験で問われる読み、書く力を見るための前提となる「読解力」が問われる入試となっています。受験生の皆さんは、引き続き読むことと書くことを大事にし、普段から少なくとも教科書をしっかりと読んで理解する姿勢を大事にしてください。
私は読むことと書くことが幼い頃から好きでしたが、あまり得意でないという方も内容が面白いと自分で思うものを選んで、読んでみることを薦めます。
壺溪塾では、国語科の瀬井裕規子講師が毎週1回「あなたはどう考える?」というタイトルで朝日新聞の問題提起的記事を紹介しています。私も静坐の中で様々な本を持っていって内容の説明をし、その後、閲覧できるように図書資料室に置いています。あらゆる機会を捉えて読むことが受験生を鍛えるという考えの下の取り組みです。それに応える塾生の読解力は確実に鍛えられていくと信じています。